5 メリット・加工方法
YAGレーザー溶接機を使用しない既存補修方法では、金型肉盛補修を行う時の最大の問題点である「ヒケ」がつきまとっています。
これは、熱入力が多すぎるために肉盛部分が本体へ溶込んでいく時に、周辺の金属を引っ張り込んでしまうために起きる現象で、これを防ぐには相当な技量を要していました。しかし、この間ご説明してきたとおり、YAGレーザー溶接機では緻密な熱入力量の設定が行えるため、必要以上の熱入力が避けられ、問題となるようなヒケを発生する原因そのものが防止できるわけです。

その事例は写真で見ていただく通りで、これまで困難を極めた肉盛加工を、これほど簡単、正確にしたものは皆無であったと思われます。
写真は、部品のエッジ部分に肉盛を施し、その面を削って断面を観察したものです。材質は本体部品、肉盛材ともNAK80を使用しています。一目瞭然ですが、ヒケはまったく発生していません。
照射条件は、肉盛材径φ0.3mm、焦点径φ0.4mm、照射時間6ms、電圧190〜200V・出力20〜22%、シングルパルスで肉盛後、8Hzで肉盛部のみをレーザ照射、1パルス4?6J前後の条件で行いました。
この時の熱量4〜6Jの事前設定はできず照射後に表示されるのですが、投入熱量のコントロールは照明時間や出力調整で簡単に行うことが可能です。ただし、このデータは焦点径をφ0.4mmに設定した時の数値であるため、焦点径の大小によって、単位面積当りの熱入力量を変動させなければ、不完全融合や反対に熱入力量が多すぎた場合などにはヒケを発生させる原因となるので注意が必要となります。

光学20倍のマイクロスコープで、目視確認を行いながらの作業となるため、溶接状態の判断がわずかな慣れで簡単にできることなり、出力コントロールで問題点の解消は簡単に行えます。
このように、必要とされるエネルギー量を、肉盛材のみに照射して融合密着ます。部品本体への熱拡散も加わり蓄熱しないため、低熱入力にて加工が施され、例えば薄物への肉盛作業にでも熱変形がほとんど発生せずに済みます。
レーザの熱源を利用する金属溶融密着技術であるため、どのような金属でも有融密着させることが可能です。
さらに、同一鋼種の肉盛はもちろんですが、異なる材質間でも急速加熱、急速冷却の溶融凝固形態を取るために、他の溶接方法より極めて簡単に加工できます。とくに、同時に焼き入れ硬度も得られるため、金型補修では画期的な技術と評価されています。

チタンなどの材質でも良好な結果が得られており、樹脂材料など常識にはなかった加工領域への研究も始まっています。超硬につきましてもこの間、良好な結果が得られており、さらなる効果が得られるよう研究開発を進めています。

作業の方法としては、最初にレーザーの照明ユニット架台とワーク台、それぞれの電動Z方向調整治具により作業高さとワークへの焦点距離をマイクロスコープで確認します。次に補修材の材質や材料径を選択し、使用する線材に見合った出力方法を行います。設定は制御盤、照明ユニット、フットスイッチの3箇所のみで行いますので、熟練度は必要としません。
具体的には、照射ユニットのマイクロスコープを作業者の作業姿勢の良い高さに調整します。次に、ワークテーブルに乗せたワークの補修部分にマイクロスコープの中心の罫線部分で焦点距離設定を行います。そして補修材を置き、補修材に出力コントロールされたレーザを照射して溶融密着させて行くことになります。連続的な作業になるため、加工ワークと補修材を常に罫線部分に移動させて行く必要が生じますが、X-Y移動治具との組み合わせや、小物ではハンドワークによる位置決めなどで簡単に形状追随が行えます。高さを必要とする場合は、同じ部分に重ね打ちを施すことで、ミリ単位の肉盛も簡単に実行できます。
重ね打ちを行う場合は気泡を抱き込む確立が高くなりますので、ピンホールの発生の要因となります。少しばかりの経験が伴いますが、レーザー光のみを照射する作業を交えながら行うと好結果が得られます。
このように、補修材を送り込める部分なら、レーザ自体は非接触加工となるため、既存の電極などを使用する補修方法とは違い優れた結果が生まれます。なかでも隅角や溝の中、穴の奥や壁面など、今までは困難とされてきた部分にでも肉盛や溶接を行うことが可能となりました。
今回はレーザの種類から用途に進み、微細肉盛を可能としたYAGレーザ溶接機を中心に説明させていただきました。鉄系、SUS系、アルミ系、真鍮、チタン、マグネシウム、金、銀、銅、高融点金属など、ほとんどの金属を溶融密着させることが可能なことがご理解いただけたと思います。欠損部分への肉盛補修という活用方法以外でも応用できる範囲は広いと考えています。ぜひ、YAGレーザー溶接機、加工技術導入のご検討を賜りますれば幸いです。 |